大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)33号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について判断する。

1 前記認定に係る本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第五号証(本願特許公報)甲第六号証(昭和六〇年一月一四日付手続補正書)及び甲第七号証(昭和六〇年一一月一六日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、地下連続壁造成用掘削孔の形成方法に関する発明であるところ、従来行われていた形成方法、すなわち、地下連続壁造成用掘削孔を多軸アースオーガで掘削形成するに当たつて、まず最初に複数の掘削孔群を形成し、次いで、この既設の掘削孔群に隣接させて次の複数個の掘削孔群を形成するという方法では、順次形成されるそれぞれ複数個の掘削孔群をそれぞれ一様な垂直面に揃えることが困難であり、作業能率も悪いという欠点があつたので、このような従来の欠点を除去し、各掘削孔群を常に同一の垂直面に沿つて掘削することができる方法を提供することを目的としたものであり(本願特許公報第一欄第二八行ないし第二欄第二行)、特許請求の範囲に規定した構成を採用したことにより、すでに形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフトに上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを設けてあるので、長いオーガシヤフトを既に形成された掘削孔にガイドとして挿入しながら掘削する場合、長いオーガシヤフトがすでに形成された掘削孔内で傾こうとしても上下方向に複数個設けたオーガスクリユーがすでに形成した掘削孔の内壁に当たつて傾くのを防止されるようになつていること(昭和六〇年一一月一六日付手続補正書第二頁第三行ないし第一二行)、長いオーガシヤフトをすでに形成した掘削孔にガイドとして挿入しながら掘削する場合、長いオーガシヤフトが掘削孔内で傾こうとするが、本願発明にあつてはすでに形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフトとして上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取り付けたオーガシヤフトを用いるので、長いオーガシヤフトがすでに形成された掘削孔内で傾こうとしても上下方向に複数個設けたオーガスクリユーが既に形成された掘削孔の内壁に当たつて傾くのが防止されるようになつており、この結果孔の掘削作業中に多軸アースオーガの掘削方向を調整する必要がないので、非常に能率良く掘削作業を行なうことができること(昭和六〇年一一月一六日付手続補正書第二頁第一四行ないし第三頁第四行、本願公報第二頁第四欄第二二行ないし第二五行)などの効果を奏するものと認められる。なお、原告は、本願発明では、前記オーガスクリユーにより掘削孔群相互の境界部における掘削土もしくは掘削土と凝結性ペーストとが良く撹拌されて掘削孔群の連続性が高められるという効果も期待できる旨主張し、前掲甲第五号証によれば、本願特許公報の「発明の詳細な説明」の欄には原告の指摘するような記載のあることも認められるが、前記認定に係る本願発明の特許請求の範囲の記載に照らしてみても、本願発明において採用するアースオーガが原告主張のごとき機能をもつものに限定し得ず、原告が本願発明の効果として主張する右の事項は、特許請求の範囲において規定された構成に基づくものとは到底認めることはできないから、本願発明固有の効果とみることはできない。

2 前記認定に係る本願発明の特許請求の範囲の記載をみると、「複数本の長いオーガシヤフトよりなる多軸アースオーガを用いて、同時に複数個の掘削孔を隣りあう掘削孔同士の一部が互いに重複しあうように連続して形成し、これらの掘削孔群に連続して次の掘削孔群を連続形成する際に、既に形成された掘削孔の一つに上記多軸アースオーガのオーガシヤフトのうちの一本を完全に収めた形で嵌挿しながら掘削するに当たり、」までの記載において、既に形成された掘削孔の一つに多軸アースオーガのオーガシヤフトのうちの一本を完全に収めた形で嵌挿しながら掘削するという本願発明の特徴的な地下連続壁造成用掘削孔の形成方法を規定し、更にこれに続いて、「既に形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフトとして上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取付けたオーガシヤフトを用いること」を規定しているものであるから、特許請求の範囲における後段の記載は、「既に形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフト」について、「上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取付けた」ものと具体的に特定している関係にある。そして、右にみた本願発明の特許請求の範囲における前段の記載に基づく構成が、審決が第一引用例(特開昭五一―一三一一一八号公開特許公報・本出願前日本国内において頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところである。)記載の発明との相違点として指摘する相違点(イ)の構成に相応し、特許請求の範囲の後段の記載に基づく構成が、相違点(ロ)の構成に相応するものである。

3 原告は、まず、取消事由として、審決が本願発明と第一引用例記載の発明との相違点を(イ)(ロ)に分割して認定判断した点の誤りを主張するので検討する。

確かに、前述のとおり相違点(ロ)の構成は、相違点(イ)の構成の一部である「既に形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフト」について、「上下方向に所定間隔をおいてオーガスクリユーを取付けたオーガシヤフト」と特定した関係にあるから、相違点(イ)の構成に従属した関係にあり、それだけで独立した構成をなすものではないこと、及び本願発明において各掘削孔群を常に同一の垂直面に沿つて掘削することができるのも、既に形成された掘削孔にガイドとして嵌挿されたオーガシヤフトに上下方向に所定間隔をおいて取り付けられた複数のオーガスクリユーで掘削孔の内壁に当たつて傾きを防止するからである(ただし、オーガシヤフトを用いた掘削孔の形成方法において、傾きを防止する機能をもつものが本願発明で規定したようなオーガスクリユーに限られないことは、後に認定するとおりである。)ことに徴すると、原告主張のように相違点を一体に認定すべきであつて、審決が、本願発明と第一引用例記載の発明との相違点を分割して認定判断したことは適切ではなかつたといえるが、審決も、相違点(ロ)の構成を指摘するについては、「このような方法で掘削するに当たり」として、多軸アースオーガのうちのオーガシヤフトのうちの一本を既設の掘削孔の一つに完全に収めた形で嵌挿しながら掘削する方法を前提としており、嵌挿されるオーガシヤフトの構成として相違点(ロ)のような違いを摘示したことは明らかであり、かつ相違点(ロ)の構成についての検討判断においては、必然的に相違点(イ)の構成をも併せ判断されることになる関係にあり、そのようなものとして検討判断されるから、審決においても、原告が一体として相違点を認定すべきであるとして摘示した後記のとおりの技術内容を実質的に認定し、これについて実質的な検討判断をしているものとみられるので、審決における本願発明と第一引用例記載の発明との相違点の認定判断の手法に不適切な点があつたとしても、これをもつて審決を違法とすることはできない。なお、原告主張のように相違点を一体に認定したうえで、その相違点について検討判断を加えたとしても、本願発明が、第一引用例及び第二引用例の記載内容に基づいてその進歩性が否定されることになることは、後に認定説示するとおりである。

4 次に、原告は、本願発明と第一引用例記載の発明との相違点は、一体として「複数本のオーガシヤフトからなる多軸アースオーガを用いて掘削孔群を形成し、この掘削孔群に連続して次の掘削孔群を形成する際に、すでに形成された掘削孔の一つにその多軸アースオーガのオーガシヤフトのうちの上下方向に所定間隔で複数のオーガスクリユーを設けた一本を完全に収めた形で嵌挿しながら掘削する点」と把えるべきであるとしたうえで、第二引用例には、右の相違点の構成を示唆するような記載はない旨主張するので、この点について検討する。

第二引用例(昭五一―一四六三〇一号公開特許公報・本出願前日本国内において頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところである。)に審決認定<1>のとおり、「複数本のドリルロツド3からなる掘削装置を用いて掘削孔群10、11、12、13を形成し、この掘削孔群10、11、12、13に連続して次の掘削孔群を形成する際に、すでに形成された掘削孔の一つ13にその掘削装置のドリルロツド3のうちの一本を完全に収めた形で嵌挿しながら掘削する掘削孔の形成方法」(別紙図面(三)参照)の記載があることは、当事者間に争いがなく、かつ成立に争いのない甲第九号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、ドリルロツド3に案内装置2´を取り付けた構成が記載され、第5図にみられる案内装置に関して、「すべての案内装置2´が該案内装置の外表面上に半径方向ならびに軸方向に延びる突起あるいはフランジの形の多数の距離装置2´aを備えている。前もつてほられた穴13内に挿入されたドリルのフランジ2´aは穴の残存壁に係合して前記穴13に対してドリル配置全体を案内し、これによつてすべてのドリルピツト6が前もつてほられた穴の軸に関して心合せされかつ一線上に配列される。前記のフランジ装置あるいは距離装置2´aのみが穴の壁に係合するという事実によつて、穴ほり操作の間の摩擦損失が大幅に減少される。」(第五頁右下欄第九行ないし第二〇行)、「ある場合には、距離装置は軸方向に延びる必要はなく多少非連続的であつてもよい。」(第六頁左上欄第一七行ないし第一九行)との記載があることが認められる。そして、当業者としては、第二引用例の第5図の図示及び右認定に係る記載内容に基づいて、すでに形成された掘削孔の一つに嵌挿した場合に掘削孔の内壁に当たつて掘削軸の傾きを防止する機能をもつものであれば、第二引用例記載の案内装置のような構成のものに限らず、また、軸方向に連続した達成のものでなくとも、すでに形成された掘削孔の一つに掘削軸を嵌挿した場合に、掘削軸に取り付けられた部材をその内壁に接触させて位置決めし、掘削軸を直立するように保持させ得ることを容易に理解し得るものと認められる。更に、第二引用例が示唆する右の技術的事項は、本願発明や第一引用例記載の発明のように、複数本の長いオーガシヤフトよりなる多軸アースオーガを用いて、連続して掘削孔群を形成する地下連続壁造成用掘削孔の形成方法においても、そのまま適用することができるものと容易に推認され、この転用の困難性を窺わせる証拠は存しない。加えて、掘削孔の形成方法に用いる長いオーガシヤフトとして、オーガスクリユーの全体部にわたつてその外径をほぼ一定とするオーガスクリユーを備えた長いオーガシヤフト及び上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取り付けたオーガシヤフトが、普通に用いられていることについては、原告も明らかに争わず、かつこのような従来周知のオーガスクリユーを備えたオーガシヤフトを、すでに形成された掘削孔の一つに嵌挿しながら掘削する場合においては、オーガシヤフトに取り付けられたオーガスクリユーが掘削孔の内壁に当たつて傾きを防止する機能を奏することも自明に属することである。したがつて、第一引用例記載の掘削孔の形成方法において、掘削孔群を連続して形成するに当たつて、第二引用例記載の掘削孔の形成方法を適用するとともに、第一引用例記載のオーガシヤフトに代えて、従来普通に用いられている「上下方法に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取り付けた」オーガシヤフトをすでに形成された掘削孔の一つに嵌挿しながら掘削するようにすることは、当業者が容易になし得る程度のことといわざるを得ない。なお、本願発明において、すでに形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフトとして「上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取付けたオーガシヤフトを用いること」とした構成に基づく効果に関しては、本願明細書全体を精査しても、さきに認定した傾き防止及びこれに伴う作業面の能率化という効果のみが理解でき、他に格別の効果を奏することを理解せしめる記載は見いだせないから、本願発明における右の構成(相違点(ロ)の構成)は、第二引用例記載の案内装置と実質的に変わらないものとみざるを得ない。このようにみてくると、本願発明と第一引用例記載の発明との相違点を原告主張のように一体として把えようが、審決摘示のように相違点(イ)(ロ)として認定判断しようが、いずれにしても、本願発明は、第一引用例及び第二引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められる。これと同旨の審決の結論は正当であり、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。

よつて、これを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

複数本の長いオーガシヤフトよりなる多軸アースオーガを用いて、同時に複数個の掘削孔を隣りあう掘削孔同士の一部が互いに重複しあうように連続して形成し、これらの掘削孔群に連続して次の掘削孔群を連続形成する際に、既に形成された掘削孔の一つに上記多軸アースオーガのオーガシヤフトのうちの一本を完全に収めた形で嵌挿しながら掘削するに当たり、既に形成された掘削孔の一つに嵌挿されるオーガシヤフトとして上下方向に所定間隔をおいて複数のオーガスクリユーを取付けたオーガシヤフトを用いることを特徴とする地下連続壁造成用掘削孔の形成方法。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!